LIXIL様に学ぶ、EX起点のAI活用と変革のリアル

AWS Summit Tokyo 2025での対談から得た示唆

はじめに:AIはIT導入ではなく、経営の意思である

2025年6月25日に開催された AWS Summit Tokyo 2025 にて、弊社Workatoは「業務改革の新機軸 ─ LIXILが進めるEX重視の新基盤とAIエージェント活用について」と題し、株式会社LIXIL 常務役員 Digital部門担当 岩﨑 磨様をお招きし、対談形式のセッションを実施しました。

立ち見が出るほどの盛況の中、参加者の多くがすでにAI活用に着手しているという事実は、変革の機運の高まりを感じさせるものでした。また、岩﨑氏の多くのコメントがITリーダー層に強いインサイトを与えるものでした。

DXではなく、“トランスフォーメーション”という言葉に込めた意味

「LIXIL社内では『DX』という言葉は使わず、『トランスフォーメーション(変革)』という言葉だけを使っている。なぜなら、それを実現するために“顧客体験”と“従業員体験”という2つの軸に分解し、両方を向上させることが、会社の変革につながるからだ」

この発言が象徴する通り、LIXILではデジタル化そのものを目的にするのではなく、体験を起点とした本質的な業務改革に取り組んでいます。派手なスローガンではなく、現場の課題に誠実に向き合う。そこに、真の企業文化が感じられました。

バックオフィス改革は「業務主導 × IT伴走型」

本プロジェクトの原動力は、業務部門の自律性にあります。岩﨑氏はこう語ります。

「LIXILでは、IT部門主導型のプロジェクトはほぼない。他社を見渡しても、成功例はほとんど見ない。だからこそ、業務部門に主導権を持たせている」

つまり、ITは業務改革の伴走者であり、現場こそが変革の主役。この姿勢は、近年注目されている「フュージョン・チーム」型の組織体制とも一致します。

「IT部門のミッションは、従業員を“社内のお客様”として捉え、彼らが快適に業務を遂行できる環境を作ること」
この考え方には、ITを“支援組織”から“体験設計者”へと進化させる強い意思を感じました。

自動化ありきではなく、「業務のあるべき姿」の再定義

多くの企業が陥りがちな、“現状業務の効率化”や“ツール導入”を目的とするアプローチとは一線を画し、LIXILでは業務の目的そのものを問い直す「BPR(Business Process Reengineering)」の視点が徹底されていました。

要件定義においても、AIに問いかけることで視点を変え、納得感を持って改革に臨む──そのアプローチは、変革を現場が“自分ごと化”する上で非常に効果的に感じました。

成果なきAI活用に意味はない:「スピードと成果」で評価せよ

岩﨑氏は、AIプロジェクトに求められるのは時間ではなく成果だと明言されました。

「毎日新しいAIサービスが発表される中で、それを時間をかけて評価している余裕はない。どれだけ早く成果を出せるかが重要だ。大量に試して、比較し、良いものにスイッチする」

この「実験と改善」を高速で回す姿勢こそが、現代のAI活用に求められるアジャイルマインドであり、PoC疲れに悩む企業への処方箋でもあります。

データ整備なくしてAI活用なし

「最初にやるべきはシステム選定ではなく、データを“きれいにする”こと」

岩﨑氏のこの言葉は、多くの現場に刺さったのではないでしょうか。
LIXILでは、まずデータ整備に注力し、その後にプロセス標準化を行い、最後にシステム選定という順序を取っています。

このアプローチは、“データドリブンな改革”を真に実現するための土台づくりであり、我々が提唱する「エンタープライズ・オーケストレーション」の考え方とも一致しています。

AIエージェントの協働で実現する“未来の働き方”

セッションでは、WorkatoのAIエージェント「Genie」を使ったデモをご覧いただきました。新入社員の入社時に行う各種アプリケーションの有効化業務を、マルチAIエージェントが自律的に連携・完結させる様子に、多くの方が興味を示して頂きました。

単なる効率化ではなく、“協働型AI”によるトランスフォーメーションの可能性を感じていただけたのではないでしょうか。

未来への展望:APIでつなぐ柔軟な企業基盤へ

「AIが活発になればなるほど、API層の重要性が増す。様々なシステム、サービス、データをマイクロサービスで疎結合にし、変化に柔軟に対応するために不可欠です。」

岩﨑氏のこの言葉は、単なるツール選定ではなく、アーキテクチャ思考の重要性を明確に示しています。LIXILでは、その役割の一部をWorkatoが担っていると紹介いただき、私たちにとっても大きな励みとなりました。

おわりに:変革は、ITではなく「現場の意志」から始まる

今回の対談を通じて、改めて確信したのは、真の変革はIT導入ではなく、現場の痛みと意思に根差したものでなければならないということです。そして、それを支えるのは、IT部門ではなく経営層の理解と支援です。

AI活用が広がる今だからこそ、成果を出すためには経営者自身が「変革」の主体であるという認識が必要です。Workatoは、そうした意志ある企業のパートナーであり続けたいと考えています。