6月10日、WorkatoはサンフランシスコのAI Research Labにて「Work^AI」を開催しました。エンタープライズアーキテクト、IT・データ部門の経営層、インテグレーションエンジニア、ビジネスシステム責任者、AI実務担当者が集まり、エンタープライズAIの現在地について、技術的な深掘りと率直な議論を行う半日のイベントとなりました。
登壇したのは、Workato CTOのAdam Seligman、Snowflake Principal AI ArchitectのOkhtay Azarmanesh、Workato Chief Strategic ArchitectのRahul Dureja、Monte Carlo CEOのBarr Moses、Workato CIOのCarter Busseです。各セッションから見えてきたのは、企業規模や業界を問わず、多くの組織が同じ課題に直面しているという共通認識でした。
本記事では、すべてのセッションで繰り返し語られた3つのテーマを取り上げます。
- なぜAIエージェントは、成果を生み出す前に立ち止まってしまうのか
- AIの乱立を負債へ変えないために、なぜガバナンスが唯一の防御策となるのか
- なぜエンタープライズアーキテクト、データ・インテグレーション実務担当者、ITリーダーが、その基盤を構築するうえで最も適した立場にいるのか
AIエージェントを導入することと、そこからROIを得ることの間にあるギャップは、「実行」にあります。
会場に集まった企業の大多数は、すでにAIを導入していました。しかし、その多くは、AIによってビジネスKPIが動いたとはまだ言えない状況でした。原因は構造的なものであり、モデル品質の問題ではありません。
Rahul Durejaは次のように述べています。「企業が変革するのは、AIが推論できるからではありません。AIが実行できるようになったときに、初めて変革が起こります。適切なシステムへアクセスできるのか。ガバナンスの境界内で動作できるのか。業務プロセスの状態を理解できるのか。確実にアクションを実行できるのか。重要なのはそこです」
Adam Seligmanは、さらに明確にこう表現しました。「AIは素晴らしいメールやPowerPointを作成できます。しかし、それを送信し、フィードバックを受け取り、関係者と調整し、実データを取得し、ユーザーに代わってシステム上でアクションを実行することはできません。従業員のオンボーディングやベンダーへの支払いを任せようとは思わないでしょう」
AI活用が停滞していることを示す数字は、非常に厳しいものです。DurejaはIDCとGartnerのデータを引用し、AIのPoCの88%が本番環境へ移行できておらず、Agentic AIプロジェクトの40%以上が2027年までに中止される見込みであり、企業の3分の2はいまだAI施策のスケールに着手していないと指摘しました。

アーキテクチャ上の診断は、すべての登壇者で一致していました。AIイノベーションレイヤーとエンタープライズのシステム・オブ・レコードの間に安定した基盤がなければ、AIエージェントは場当たり的に動作します。誤ったツールを選び、必要な手順を飛ばし、一貫性のない結果を返し、場合によっては何も通知しないまま失敗します。Durejaは、医療機関の予約調整シナリオを使って、この問題を実演しました。同じ患者からの依頼を、13個の細分化されたMCPツールへ振り分けたところ、使用するモデルやプロンプトの表現によって4つの異なる結果が生まれました。一方、プラットフォーム側のオーケストレーションに支えられた、インテントベースの単一のコンポーザブルスキルを通じて処理すると、毎回正しい結果が得られました。
解決策は、新しいモデルではありません。必要なのは、未整理のAPI群ではなく、AIエージェントへ明確なプレイブックを提供するエンタープライズAIインフラのアーキテクチャです。どのモデルやエージェントのインターフェースから呼び出されても、毎回同じように実行される、事前にオーケストレーションされた業務ロジックが必要になります。
Barr Mosesは、それが実現した状態を次のように説明しています。「現在、当社の利用量の半分以上は、MCP経由でデータを取得するAIエージェントによるものです。これからの未来を考えると、当社の製品を利用するAIエージェントの数は、人間より多くなるでしょう。その世界に向けて、私たちはどのような製品を構築すべきなのでしょうか」
AIはあらゆる場所へ広がっている。乱立を負債にしないための唯一の手段がガバナンス
現在、ほぼすべてのソフトウェア企業がAI製品を発表しています。各部門がAIエージェントを導入し、ベンダーや個人開発者がMCPサーバーを公開しています。その拡大は現実のものであり、それに伴うリスクもまた現実です。
Seligmanは次のように述べています。「すべてのAIエージェントが個別プロジェクトとして構築され、システムごとに独自のID管理、インテグレーション、オーケストレーション、接続性、可観測性、ガバナンス、トークン管理を行うようになれば、IT業界に長く携わってきた方なら、その先に何が起きるか分かるはずです。非常に厄介な状況になります。リスクと複雑性が大幅に増え、組織のスピードは低下します」
Azarmaneshは、Snowflakeの視点から同じ状況を説明しました。「社内外のさまざまな提供元から、数百ものMCPサーバーが存在するようになり始めています。それらのガバナンスが課題になっています。どのようにすれば容易に統制できるのか。適切なアクセスポリシーが確実に適用されていることを、どう担保するのかが問われています」
Durejaは、ガバナンスされていないAIが実際にはどのような状態なのかを率直に説明しました。「多くのMCP環境は、管理者権限を持つサービスアカウントで実行されています。ユーザー単位の権限管理も、監査証跡もありません。Workatoは実行時にガバナンスを適用します。AIエージェントによるすべてのアクションは、認証・認可され、監査可能です」
特に重要となる機能は、すべてのツール呼び出しの入口となる単一のMCPゲートウェイ、昇格されたサービスアカウントではなく実ユーザーの権限を実行時に適用する仕組み、AIエージェントの暴走を防ぐ一元的なレート制限、そして監査時に追跡可能な証跡を残す改ざん不能の監査ログです。
Carter Busseは、これをエンタープライズ内でAIを大規模に運用する日常的な現実と結び付け、次のように述べました。「もはや、最も高性能なモデルである必要はありません。本当にそうです。LLMプロバイダーとの契約更新時に何が起こるのかを見据えて準備しておくべきです」
ガバナンスの有無が、AIを管理されたビジネス資産にできるか、それとも時間とともに膨らみ続ける負債にしてしまうかを分けます。

アーキテクト、ITリーダー、GRCチームがAI変革の推進役になる
ファイアサイドセッション全体を通じて、最も一貫して語られたテーマは、組織構造と説明責任でした。AIオペレーションを誰が所有するのか。何をガバナンスの対象とするのかを誰が決めるのか。そして、実際にそれを適用する権限を誰が持つのか、という問いです。
Carter Busseは明確に述べています。「その役割を担うべきなのはITチームです。今こそ前に出て、リードしなければなりません。自らリーダーにならなければ、AIオペレーションを自分たちで所有できなくなり、周囲にCAIOが配置されることになります。まだAIを所有していないのであれば、今すぐ取りに行くべきです。AIは非常に大きな力を持っており、ITリーダーとしてAIを所有することで、より戦略的な存在になれるからです」
しかし、所有権を持つだけでは十分ではありません。あらゆる部門の従業員が必要としているのは、単に高性能なだけではなく、実際に使えるツールです。Busseは、Workato社内でAIの活用が本格的に加速した際に何が変わったのかを次のように説明しました。「2週間にわたり、毎日トレーニングを実施しました。朝8時と夕方5時です。その後、GTM、財務、カスタマーサクセスの各部門で利用が広がり始めました。そのうちの一人から電話があり、『Carter、このツールによって自分の役割が変わりました。営業担当者として成長できました。販売活動に使える時間が増え、ビジネスの予測精度も高まりました』と言われました」
Barr Mosesは、Monte Carloで起きた同様の変化について説明しました。全社でAI利用を必須とした結果、それまで5〜6人が関与していた本番リリースまでのプロセスが1人で完結するようになり、機能リリースのキャパシティは3倍から5倍に増加しました。「この変更以前は、効率向上は20〜30%程度だと見積もっていました。しかし、実際に利用を徹底すると、役割そのものが完全に変わりました。エンジニアが顧客の要望、考え、感情へ直接アクセスできるようになったのです。顧客の声を聞いてから本番環境へ機能をリリースするまで、その流れに関わる全員が、今では自ら一連の業務を担っています」
両経営者が説明したパターンは同じです。従業員へツールを提供し、そのツールを重要なシステムへ接続し、経営層が明確な期待値を示し、各部門へ説明責任を持たせる。その結果として変革が起こります。ただし、そのためには、適切なアーキテクチャを構築できる技術的権限と、それを組織へ適用できる立場の両方を持つ人材が必要です。
Okhtay Azarmaneshは、日常的にAIを運用する担当者にとって、アーキテクチャに何が求められるのかを次のように説明しました。「AIエージェントが返す内容を信頼できるようにする一方で、各ユーザーが本来持つアクセス権限の範囲内で、必要な形式の情報のみを受け取れるようにする必要があります。また、ユーザー単位、チーム単位、組織全体で予算を設定できることも重要です。このような制御があって初めて、エンタープライズ企業はAIを本番環境へ導入できます」
会場にいたアーキテクト、データリーダー、セキュリティエンジニア、インテグレーション実務担当者は、単なる実装担当者ではありません。現在あらゆる業界で生まれつつある分岐の中で、自社がどちら側へ進むのかを決める存在です。
すべての登壇者が最後に示したメッセージは、同じ結論へ行き着きました。ボトルネックはモデルではありません。インフラ、アーキテクチャ、ガバナンス、そしてそれらを構築・維持する人材へ投資するという組織の意思こそが、ビジネス指標を動かすAIと、業務の横に置かれたまま中核へ届かないAIを分けます。
先行している企業は、最も多くのAIツールを持つ企業ではありません。AIツールを確実、安全かつ大規模に実行できる基盤を構築した企業です。
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