AIが便利なアシスタントから、「これ、全部やってくれないの?」と期待される存在に変わった瞬間。そして、そのギャップを埋めるために何が必要なのか。
2024年10月、Workatoでは1,000人の全社員にChatGPT EnterpriseとClaude for Businessへのアクセスを提供しました。
最初の利用状況は安定していましたが、特別に目立つものではありませんでした。メール作成、データ分析、アイデア出しなど、一般的なAIアシスタントの使い方が中心でした。利用量は1日あたり150〜200チャット程度でした。
その後、私たちはある取り組みを行いました。Claudeを社内のMCPサーバーに接続し、Gong、Snowflake、Salesforce、Jira、Gmail、Slackなどの業務システムを読み取り専用で参照できるようにしました。
すると、2週間で利用量が700%増加しました。
これは単に新しいツールを試していたわけではありません。各チームが実際の業務アプリケーションを構築し始めたのです。営業担当はSalesforce、Gong、Slackのデータをまとめて商談準備を行うAccount Intelligence Dashboardを作成しました。CSMチームは、担当顧客全体からリスク顧客を抽出するPortfolio Analyticsを構築しました。プロダクトマネージャーは、通話記録から機能要望を抽出するCustomer Story Miningツールを作成しました。
ここで本質的な変化が起きました。AIが実際の業務データにアクセスし、現実のビジネス状況に基づいた提案ができるようになったのです。
営業担当は次のように質問できます。
「この見込み顧客との直近3回の商談で出た反対意見は何だった?」
サポートエンジニアは次のように質問できます。
「過去1ヶ月で似たチケットを見せて」
プロダクトマネージャーは次のように質問できます。
「前四半期の顧客通話で最も多かった機能要望は?」
コンテキストが加わることで、AIの価値は指数関数的に高まりました。
AIは汎用的なアシスタントから、自社のビジネスを理解する存在へと変わったのです。
しかし、その直後、全員が同じ壁にぶつかりました。
ギャップが見える瞬間
AIがコンテキストを使ってできることを理解すると、人々は次にこう思いました。
Account Intelligence Dashboardが顧客の健全性スコアを分析してくれる。
「Salesforceのリスクフラグをそのまま更新してくれない?」
Competitive Battle Cardsツールが通話データや勝敗データを分析してくれる。
「比較資料を生成して営業に送ってくれない?」
Call Analysisシステムがコーチングのサマリーを作成してくれる。
「コーチングタスクを作成してマネージャーに割り当ててくれない?」
答えはNoでした。
なぜなら、MCPサーバーは読み取り専用だったからです。
AIはビジネスのコンテキストを理解し、優れた提案はできました。しかし、それを実行することはできませんでした。
AIが提案できることと、ビジネスが実際に実行してほしいことの間のギャップ。
ここで多くの企業が止まってしまいます。
これはAIモデルの限界ではありません。ClaudeやChatGPTは非常に強力で、問題を理解し、コンテキストを把握し、適切な解決策を提案できます。
問題はインフラでした。
AIに「見る能力」は与えたが、「安全に実行する能力」はまだ与えていなかったのです。
「AIにやらせればいい」は想像より難しい
ここに本質的な問題があります。顧客への返金、請求書の支払い、在庫の発注など、業務のアクションは毎回正確に実行されなければなりません。企業の業務は「たぶん正しい」で動かすことはできません。
しかしAIは本質的に確率的な仕組みです。パターンに基づいて賢い提案はできますが、結果を保証するものではありません。これが分析には強い一方で、実行にはリスクがある理由です。
単純に書き込み権限を与えるだけではいけません。AIの出力を業務ロジックで制御するインフラが必要になります。必要なものは次のとおりです。
・条件分岐ロジック
・承認ワークフロー
・アクセス制御
・監査ログ
このオーケストレーションレイヤーがなければ、AIは読み取り専用のままになります。提案はできても、実行はできません。
コンテキストからアクションへ
人々がどこで壁にぶつかるのかを確認した後、私たちは次のステップに進みました。書き込み操作を有効にしましたが、その操作が安全に行われるようオーケストレーション制御を追加しました。
これによりAIは、Jiraチケット作成、Salesforce更新、ワークフロー実行、メール送信、データウェアハウスへの書き込みなどを実行できるようになりました。しかし、すべてのアクションはWorkatoのオーケストレーションレイヤーを通過し、業務ルールに従って実行されました。
AIが提案を行い、Workatoが実行を管理する。
その2週間後、社内ハッカソンを開催しました。社員は実際の業務課題を持ち込み、AIがどこで賢くあるべきか、どこで制御されるべきかを理解した上でアプリケーションを構築しました。
ハッカソンで分かったこと
数百件のプロジェクトが提出されました。Account Intelligence、Portfolio Analytics、Battle Cards、Proposal Generation、Customer 360などの既存プロジェクトがテンプレートとなり、各チームが自分たちの業務に合わせて拡張しました。
しかし、すべてのユースケースは同じパターンでした。
サポートエンジニア
AIがチケット返信案を作成するが、500ドル以上の返金は人間の承認が必要
財務担当
AIが月次決算データを集め例外を検出するが、異常値は経理責任者に承認を回す
Sales Ops
AIがSalesforce、Gong、Slackの情報をまとめ商談準備をするが、パイプライン予測や契約条件にはアクセスできない
AIは賢くあるべきところでは自由に動き、予測可能性が必要なところではWorkatoが制御する。
これがAIを本番環境で安全に使うための仕組みです。
インフラのギャップ
もしあなたの会社でも、AIが分析や提案はできるが実行できないという状況なら、それは珍しいことではありません。ほとんどの企業が同じ段階にいます。
問題はAIモデルではありません。モデルは十分に強力です。
問題は、基盤モデルが提供する機能と、企業がAIを本番運用するために必要な機能の間のギャップです。そのギャップが、ガバナンス、オーケストレーション、そして信頼です。
私たちが学んだことは次のとおりです。
コンテキストが価値を生む
AIが実際の業務システムを見られるようになると、AIの価値は大きく向上する
ギャップは自然に現れる
AIがコンテキストを理解すると、人は次にAIに実行してほしいと思うようになる
書き込み操作にはオーケストレーションが必要
AIの出力を業務ロジック、承認、アクセス制御、監査ログで制御する必要がある
Workato Enterprise MCPはそのインフラレイヤーです。
AIにコンテキストを与え、業務システムと接続し、提案から実行へ安全に移行できるようにする基盤です。AIには推論を任せ、業務プロセスの予測可能性はWorkatoが担保します。
私たちはこのギャップに自分たち自身で直面したからこそ、この仕組みを構築しました。そして、このインフラの価値は、その上に何が構築されたかを見ることで初めて理解できます。
次回は、この社内アプリケーションの具体例、Account Intelligence Dashboard、Sales Proposal Generation、Customer 360などがどのように構築され、どのようなオーケストレーション制御によって安全に運用されているのかを解説します。
