「金融商品取引法改正前に、AIで戦える組織を作る。」 ——コインチェックが全従業員のAI活用基盤をWorkatoで構築した理由

「金融商品取引法改正前に、AIで戦える組織を作る。」 ——コインチェックが全従業員のAI活用基盤をWorkatoで構築した理由

部門

IT/DX推進

国と地域

東京都、日本

業種

金融サービス

概要

コインチェック株式会社は、2027年に施行が見込まれる金融商品取引法改正を見据え、今後の市場環境の変化に柔軟に対応できる組織体制の構築に着手しました。多様な金融プレイヤーの参入が予想される中、AI活用を通じた生産性の最大化を推進することで、質の高いサービスを安定的に提供できる持続可能な成長基盤を整えています。金融業特有のガバナンス・監査要件を満たしつつ、全業務システムのMCP化を推進するプラットフォームとしてWorkatoを選定しました。経費精算・勤怠・人事データベースなど10個以上のMCPサーバーを構築・提供し、全従業員がコーディングエージェントから業務システムを横断操作できる環境を整備。結果として従業員一人あたり月間約35時間の業務削減を実現しています。全社で今までに500以上のレシピが1,600万件以上のタスクを処理する規模にまで拡大しています。

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ビジネス上の課題

「AI活用を推進しようとしたとき、こんな壁に直面しませんでしたか?」

社内システムの多くにAIがつながらない。
誰の権限でAIが動いているか、監査で証明できない。
ツールを導入しても、一部の社員しか使いこなせない。

2027年度に施行が見込まれる金融商品取引法改正を見据え、コインチェック株式会社が選んだ答えは"人を増やす"ことではなく、"一人ひとりの生産性をAIで最大化する"ことでした。

2024年12月に経営層がAI活用を戦略的優先事項と位置づけ、2025年度のAI関連投資の予算を確保しました。

「当初はChatGPT EnterpriseをはじめとするチャットベースのAI活用が中心でしたが、真の業務効率化を実現するためには、社員が日常的に使う業務システムとAIをシームレスに連携させることが不可欠でした。」と河石氏は当時を振り返ります。国産SaaSや社内固有のシステムを含めると、公式のMCPを提供していないサービスも多く、また、「誰が操作したか」を明確に管理できるガバナンス基盤が整っていないままAI活用を拡大することは、親会社の上場に伴う米国SOX監査対応の観点からも許容できませんでした。こうした状況のなか、AIを全社的に活用するための基盤をいかに構築するかが、情報システム部門から独立して新設されたAI専門チームの中心的なミッションとなりました。

採用理由

2021年からiPaaSとしてWorkatoを活用していた実績があるなかで、AI活用基盤の構築においてもWorkatoを選定した理由は主に三点あります。

第一に、ユーザー認証(Verified User Access: VUA)の仕組みです。「AIが業務システムを操作する際、「システムを構築した人の権限」ではなく『実際に操作する従業員自身の権限』で動作することは、金融業における権限管理・ガバナンスの観点から絶対的な要件でした。」と河石氏は強調します。「他社のワークフローツールでは構築者の権限で動作してしまうのに対し、WorkatoはVUAによって従業員個人の権限での実行が保証されており、この点が採用の決め手の一つになりました。」

第二に、サービス化の容易さです。Workatoで構築したMCPサーバーやワークフローは、SlackやAPIを通じて従業員が自然に利用できるインターフェースとして提供できます。従業員が個別にツールを導入・学習することなく、構築済みの機能をそのまま利用できるため、AI活用の社内浸透における障壁を大幅に下げられると判断しました。

第三に、エンタープライズとしてのガバナンス機能です。開発環境とプロダクション環境の分離、変更履歴・デプロイ履歴の保存、RBAC 2.0による細やかな権限管理など、監査に耐えうる変更管理の仕組みが整っていることが、米国SOX監査対応を進める上で内部監査担当者および外部監査人からの承認を得る根拠になりました。

活用内容と導入効果

現在、Workatoを活用して構築・提供しているMCPサーバーは10個以上にのぼります。バクラクの経費精算申請、freee会計、Google Workspace各種(Gmail・Google Drive・Google Calendarなど)、勤怠管理システム(ジョブカン)、社内ワークフローツール、開発工数管理システム、国の法令検索システム、人事データベース(BigQueryで構築したものをMCPでラップ)など、社員が日常的に利用する業務システムを横断的にカバーしています。これらのMCPサーバーを通じて、コーディングエージェント(Claude CodeやCursor)を使う全従業員が、エンジニアかどうかを問わず、自分の権限で業務システムを横断的に操作できる環境が整いつつあります。

また、専門ナレッジに特化したRAGエージェントも複数稼働しています。Confluenceの特定スペースを自動クロールしてナレッジベースに登録し、従業員向けの働き方ハンドブック、経費精算ルール、各種社内規程、さらに金融業特有の法令情報まで幅広く対応しています。ナレッジの追加・更新・アーカイブも自動化されており、常に最新情報をチャットで引き出せるようになりました。

さらに、半年ごとの人事評価サイクルを支援するエージェントをPOC期間中にわずか1週間で構築しました。「評価を手伝って」と依頼するだけで、Jira・Confluence・Gmail・Google Drive・Slackの過去半年分のアクティビティを横断的に収集・要約し、月別レポートとして提供します。記憶の欠落を補うことで自己評価の質と網羅性が向上し、評価プロセス全体の品質改善にも貢献しています。

これらの取り組みの結果、2024年12月からCursorをエンジニア以外の職種を含む全社へ展開し、MCPでSlackやGoogle Workspaceとの連携を進めた結果、2025年3月時点でのアンケートベースの集計では、従業員一人あたり月間約35時間の業務削減効果が確認されています。また、全社で今までに500以上のレシピが1,600万件以上のタスクを処理する規模にまで拡大しています。

Coincheck Diagram 1 (v2)

今後の展望

今後は三つのフェーズで取り組みを拡張していく予定です。まず現在進行中の第一フェーズでは、特定部門が利用するシステムも含めた全業務システムのMCP化を完遂し、コーディングエージェントが「つながらない業務システムをゼロにする」という目標達成を目指します。

続く第二フェーズでは、GitHub・Google Calendar・Slackなど複数のSaaSデータをBigQueryに集約し、AIが横断的にデータを参照・推論できる計算可能なデータ基盤を構築します。たとえばJiraのチケット情報とSlackの会話・カレンダーのミーティング履歴を組み合わせることで、エンジニアの工数入力を自動推定するといった活用が実現します。

第三フェーズでは、AIが確率論的に処理している業務のうち、正確性の担保が求められるものを特定し、Workatoによる決定論的なワークフローに置き換えていきます。AIが自然言語で業務を言語化・スキル化した結果をGitHubで社内共有し、属人化を解消しながら、Workatoで堅牢なワークフローとして再構築していく計画です。人事評価支援エージェントについても、組織の評価基準に沿った自己評価ドラフトの自動生成や、月次・週次の振り返り資料作成、1on1用レポート生成など、さらなる展開を予定しています。

「コーディングエージェントがつながらない業務システムをなくし、全従業員の生産性をAIで最大化する」というビジョンのもと、Workatoはその基盤プラットフォームとして、今後も中心的な役割を担い続けます。

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